研究概要 |
近年、高周期14族元素多重結合化学種の研究が盛んに行われ注目されている。高周期14族元素不飽和化学種は、有機化学の基礎を構築する炭素類縁体とは異なる多重結合様式及び反応性を示す。しかし、合成上の困難さから高周期14族元素三重結合化学種の報告例は非常に少なく、三重結合の化学は未開拓な分野であった。一方、ごく最近我々は、ケイ素-ケイ素三重結合化学種ジシリンの合成・単離に成功し、その分子構造や分光学的性質を初めて明らかにしている。本研究は、ジシリンを鍵化合物として新たな高周期典型元素化学の領域を構築し、次世代新素材への応用を目的とする。 ・芳香族化合物への展開 ジシリンとフェニルアセチレンとの反応では、新規な環化付加反応が進行し1,2-ジシラベンゼンを得ることができた。これは同一骨格内にケイ素原子を有する安定なベンゼンとして初めての合成例である。また、X線構造解析により、分子構造の決定にも成功した。さらに、^1H、^<13>C、^<29>Si NMR測定や紫外-可視吸収スペクトル測定、理論計算等による実験的・理論的な考察の結果、1,2-ジシラベンゼンが芳香族性を有することを見出した。 ・ジシレニルアニオン種への展開 ジシリンと^tBuLiとの反応ではリチウム水素化反応が進行し、新規な水素置換ジシレニルリチウムの合成・単離に成功した。また、DMEの添加により溶媒分離イオン対へと変換し、その分子構造をX線構造解析により明らかにした。さらに、^1H、^<13>C、^<29>Si NMR測定や紫外-可視吸収スペクトル測定、水素化試薬との反応により、sp^2ケイ素アニオン種の求核性や塩基性、負の超共役効果を見出した。ジシレニルアニオン種は、ケイ素-ケイ素二重結合を保持したまま求核置換反応ができるため、直鎖状π共役系が拡張したケイ素ポリマーへと展開することで新たな導電性素材への応用が期待できる。
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