生物圏起源の有機物が岩石圏に固定されるプロセスとメカニズムを明らかにすることを目的として、代表的有機鉱物である芳香族炭化水素鉱物の生成原理に焦点を絞って研究を行った。 炭化水素鉱物は、そのほとんどを多環芳香族炭化水素(PAH)を主成分とする鉱物が占める。その中でも今回はカーパタイト(米国カリフォルニア州産)の生成機構を考察するため、結晶構造解析と炭素同位体組成分析を行った。結晶構造解析の結果、カーパタイトはコロネン分子(C_<24>H_<12>)がファンデルワールスカによって結合した有機分子結晶であることが判明した。コロネンは高い芳香族性をもつ有機分子であり、高い安定性をもつ。カーパタイト結晶が石英脈に包有されていることから、シリカ成分を含むような熱水活動によって生成されたことは明らかである。また、δ^<13>C=-22.39±0.18^0/_<00>という値は海洋生物起源であることを示唆している。すなわち、海洋有機堆積物が熱水変質を受けてコロネンとなったものが、その高い安定性のため、ほかの有機分子は分解・揮発し、最終的にカーパタイトとして結晶化したと結論づけた。 カリフォルニア州沿岸部にみられるような、堆積物中の有機物が熱水活動によって有機鉱物へと変化するような状況は、日本列島においても見出せる可能性は高い。この観点から、カーパタイトが多産する水銀鉱床区に類似した、北海道イトムカ鉱山の水銀鉱石を詳細に観察、分析した。その結果、石英脈の表面にフィルム上に析出した固体状有機物を発見することができた。有機物の正確な同定および生成機構については目下検討中である。イトムカ鉱山の水銀鉱物は自然水銀の割合が高いことが特徴であるが、有機物による還元作用が寄与していることが示唆された。
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