研究課題
本研究は、カンティール・ピラメセ遺跡(エジプト、東デルタ)という新王国時代(紀元前16-10世紀)の遺跡を核として、出土した動物遺体・骨角器を扱って研究を進めている。当遺跡は、ラムセス2世治下の首都であり、王宮周辺遺構と付属の所謂ワークショップ(工房)跡から、金属器・土器・石器などと共に動物遺体約7000点と骨角器(および関連する加工痕を有する動物骨)約400点が出土している。カンティール遺跡の発掘・磁気探査は、1980年〜2005年まで大体ほぼ毎年行われてきた。骨角器に関しての報告は未だ出版されておらず、動物遺体は、これまで2度調査報告がされているが1994年までに行われた動物遺体分析以降は、今の所未報告である。2004年までの調査で出土した動物骨の同定・記録と骨角器の実測は完了し、現在この遺跡の出土遺体のデータ分析と(研究代表者の博士論文のテーマでもある)報告執筆を進めている。これまでの分析から、カンティール遺跡で利用された動物はその大部分が家畜であるが、数は限られるものの多様な野生動物も狩猟や交易などにより遺跡に持ち込まれていたことが明らかになった。平成18年度の成果としては、カンティール出土のダマジカがメソポタミアの種(Dama mesopotamica)だけではなくヨーロッパの種(Dama dama)も含まれていた可能性を指摘したことである(ASWA : Archaeozoology of Southwest Asia and Adjacent Areas研究会、Lyonにて発表)。併せてテル・エル・ダバ遺跡、ブト遺跡、アビドス遺跡出土の動物遺体も併せて比較検討し、下エジプト(デルタ地帯)の動物相の変遷・利用と、動物利用にみられる地理的差異(上・中・下エジプト)の考察を進めている。平行して動物考古学の基礎研究に必要な比較現生標本に関しては、本年度はナイル淡水魚類の標本作製を行った。
すべて 2007
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Mittellungen des Deutschen Archaologischen Instituts, Abteilung Kairo. (in Press)