概日時計を持つシアノバクテリア、Synechococcus elongatus PCC 7942は時計中枢遺伝子kaiABCをコードする。これらの遺伝子発現産物はシアノバクテリアの概日時計の自励振動体として機能する一方、自身の転写-翻訳フィードバループを介して、ゲノム上の全遺伝子発現に概日振動をあたえると推測されてきた。事実、これまでのluxAB発光レポーターを用いた遺伝子発現解析では、概日振動を示さない遺伝子はひとつも見つかっていない。そこで本研究ではゲノム上にコードされる全遺伝子が自励振動体からどのように概日情報を獲得するかを検証した。マイクロアレイ解析で、シアノバクテリアの全mRNAの発現挙動を確認したところ、全ての遺伝子がmRNAの蓄積レベルで振動しているわけではなく、全体の約30%のみが転写レベルで発現振動を示すことが明らかになった。また転写レベルで概日発現を行なわない遺伝子は、Kaicタンパク質によるネガティブフィードバック制御を受けないことも明らかになった。すなわち、レポーター遺伝子の発現振幅は、遺伝子発現過程の複数の段階で付与されていることが予測され、外部環境情報の入力系が転写過程だけではなく転写後過程にも影響を及ぼす可能性が示唆された。さらにシアノバクテリアの概日時計の自励振動体であるKaiABCタンパク質複合体を細胞内から精製し、プロテインシークエンス解析したところ、この複合体の中には、これまでに報告されている、KaiA、KaiB、KaiCとヒスチジンキナーゼSasAのほかに、翻訳伸長因子であるEF-G1が含まれていることが分かった。
|