研究概要 |
本研究の目的は,農産物加工業者と農業生産者の提携の観点から,「良質」食品の供給体系の形成・維持メカニズムを解明するとともに,そうした食料供給体系の構築に基軸を有する新たな農村開発戦略の可能性と限界を論じることにある.その際必要とされるタスクの一つは,今日の日本における「食料の質」のあり方を理論的,実証的に解明することである.具体的には,1.国内外の農業・食料研究において,食料の質に対しいかなるアプローチがとられてきたか,2.現実において,アクター(加工業者,原料生産者,消費者など)が食料の質をどのように捉えているか,といった点を理解することが求められる. そこで本年度は,まず欧米の農業地理学/社会学/経済学における「フードクオリティ」,「フードネットワーク」といった概念の検討を通じて,そうした概念が提唱されるに至った学問的/社会的背景を探った.同時に,日本では「食料の質」,「フードネットワーク」をめぐる理論的・実証的研究が絶対的に不足していることを指摘した. また,現実における食品の質のあり方を理解するため,地場企業(埼玉県神泉村・新潟県新潟市)の味噌供給ネットワークを分析し,味噌原料の「良質」概念が,味噌製造業者,原料生産者,消費者などのアクター間の関係の中で構築・共有,具現される過程を考察した.結果,味噌原料の良質概念の構築・具現過程では,以下の特徴が見られることが明らかになった.(1)良質概念は,製造業者,篤農家,食の安全に敏感な消費者の間の交流の中で構築され,そうした概念を受け入れる素地を有するアクター間で共有されていく.(2)アクター間で良質概念が共有されるに伴い,味噌供給ネットワークが空間的に伸張する.(3)良質概念は,原料に内在的な,その生産にかかる情報に対し,良質概念に同調するアクターのネットワークが価値を付与することで,原料の物質性と結びつき具現される.
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