研究概要 |
2006年度は,地理学評論に(1)「味噌供給ネットワークにおける原料農産物の質の構築」を,E-journal GEOに(2)「食料の地理学における新しい理論的潮流-日本に関する展望-」をそれぞれ発表した.論文(1)は,これまで理論的検討があまりなされてこなかった食料の質の構築を「概念化」,「物質化」,「維持」の観点から捉えるとともに,味噌の原料農産物を事例にその質の構築過程を実証的に論じたものである.論文(2)は,1990年代以降,欧米の「食料の地理学」において提唱されてきた理論的諸概念を日本の文脈に敷術しようとする試みである,同論文において報告者は「食料の質とフードネットワーク」(V章)を執筆担当し,フードネットワーク論の理論的背景と特徴,日本における同理論援用の展望を論じた. また上の作業と平行して,食料供給体系における部門間の近接の意義を解明する作業を進めた.これは,ローカルな食料供給ネットワークにおけるアクター問の空間的近接ないし社会文化的近接に対するアクターの意識を解釈しようというものである.具体的には,兵庫・京都・広島・佐賀各府県における地域完結型の酒米契約栽培を取り上げ,原料生産・加工部門間の近接に対する酒造業者,酒米生産者の意識の解明を試みた.その際,フードネットワーク論に依拠しつつ,主に「ネットワーク参加時の意識」,「現在のネットワークに対する評価」,「外部ネットワークとの相対的評価」の三点に着目しながら調査を行った. なお,兵庫(丹波市・篠山市・加東市)・京都(福知山市)・佐賀(鹿島市)の事例に関しては2007年1月から3月にかけて,広島(竹原市・東広島市・三原市)の事例に関しては2006年11月と2007年3月に,酒造業者と酒米生産者への聞取り調査を実施した.これら調査結果の分析作業は現在も進行中であり,2007年6月を目処に地理学評論へと投稿する予定である.
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