研究概要 |
2007年度は,地理学評論に「清酒供給体系における酒造業者と酒米生産者の提携関係」を発表した.同論文は,ローカルを場面で酒造業者が酒米生産者と結ぶ提携関係をショートフードサプライチェーン(≒顔のみえる関係)と位置づけ,その促進・存立の仕組みを空間的,社会的,経済的オルタナティヴ性の面から考察しようとするものである、分析を進めるに当たって,提携関係に対する酒造業者と酒米生産者の期待・評価やそれに基づく判断・行為に着目した.加えて,酒造業者と酒米生産者が参加する他の供給体系との関連の中で,提携の特質やそれに対する主体の評価などを相対的に捉えた.具体的には,(1)提携関係が各主体のいかなる意図のもとどのように築きあげられたのか,(2)一旦形成された関係は個々の主体の解釈,行為にどのような影響を及ぼしうるのか,といった諸点を「距離・ノード数の削減」,「相互作用」,「情報交換」,「価格の形成・保証」に着目しながら明らかにした. 得られた知見は以下の通りである.(1)酒造業者と酒米生産者の提携関係は,主としてそこでの個人間の相互作用や密な情報交換に対する各主体の期待が合致することで生み出された.(2)その形成過程にはいくつかのパターンがみられ,酒造業者ないし農家による積極的働きかけのほか,自然食品のネットワークや生産地域内の近隣関係が各主体の思惑を結びつける起点となっていた.(3)そのような発展パターンの差異は,原料生産地域の社会経済的環境や酒造業者・農家が置かれた立場の違いに起因するものであった.(4)提携が主体に及ぼす影響としては,信頼関係の醸成,ネットワークの進化,酒造業者による経済的支援,市場競争力の強化,生産調達リスクの増加が挙げられ,これらの作用をいかに活用あるいは克服するかが提携の存立に向けた鍵となる.なお同論文の骨子は,2007年日本地理学会秋季学術大会(熊本大学,10月)において口頭発表した.
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