線虫は、餌が存在する条件で飼育された場合は温度勾配上で過去の飼育温度へ移動し、餌がない飢餓条件で飼育された場合は過去の飼育温度を避けるという、餌と温度の連合学習行動を示す。cGMP依存性プロテインキナーゼ遺伝子(PKG)に変異を持つegl-4変異体は、低温(17℃)における連合学習行動は正常であるが、高温(25℃)においては、餌のない条件で飼育されても、温度勾配上で饑餓体験温度である25℃付近に移動するという、連合学習行動の異常を示す。新規の遺伝子に変異を持つaho-3変異体は、egl-4変異体と同様に、高温においてのみ連合学習行動に異常を示す。本研究では、EGL-4/PKGと新規タンパク質AHO-3との関係を調べるために、aho-3変異体について遺伝学的、行動学的な解析を行なった。 AHO-3は加水分解酵素ドメインを持つと予測され、ヒトを含む多くの生物種で高度に保存されているにも関わらず、その機能についてはほとんど明らかにされていない。AHO-3の発現パターンを解析する目的で、野生型個体にaho-3遺伝子連結型GFPを導入し発現させた結果、温度走性行動を制御するニューロンAFD、AWC、AIYと、餌の認識に関与する可能性が示唆されている感覚ニューロンADFにおいて、GFP蛍光が観察された。aho-3変異体において細胞特異的に野生型aho-3遺伝子を発現させる細胞特異的表現型回復実験を行なったところ、aho-3変異体の連合学習異常は、温度受容ニューロンAWCを含む少数のニューロンにおける野生型aho-3遺伝子の発現によって、部分的に回復した。現在は、引き続き細胞特異的表現型回復実験を行なうと共に、酵母Two Hybrid系を用いて基質の同定を行なうために、DNAコンストラクトの作成などの準備を進めているところである。
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