研究概要 |
神経変性疾患(アルツハイマー病[ア病]、プリオン病、前頭葉側頭型痴呆)に対する治療薬の開発を本研究の目的として、ヒューマニン(HN)およびその誘導体の治療効果、投与経路の検討を行った。 今年度は初めに、薬効評価に特化した新規ADモデルマウス作成に着手した。その際に、げっ歯類の脳室内へ大量のAβ25-35を単回投与することにより、Y字型迷路(Y-maze)における空間的作業記憶障害が誘導されることに着目し、マウスの側脳室内にカニューラを留置して少量のAβ25-35を3週間にわたって反復投与することにより記憶障害を誘導するという、Aβの亜急性毒性をもとにした新しい薬効評価系を構築した(Yamada et al., Behav Brain Res 164:139-146:2005)。次に、このADモデルマウスを用い、HNおよびその誘導体の治療効果を検討した。我々は、脳室内投与ではなく末梢投与でも効果を発揮するような誘導体を作製したいと考え、新しい神経保護ペプチド、コリベリン(Colivelin, SALLRSIPA-PAGASRLLLLTGEIDLP[アミノ酸1文字表記])を作製した。このペプチドはHNのN末端に多量体化を促進するペプチドを結合させることによって効果が強まるという知見に基づき(Terashita et al., J Neurochem 85:1521-1538:2003)、1996年に発見されたAβの神経毒性を抑制する9アミノ酸からなる多量体化を促進できる神経保護ペプチド、Activity-dependent neurotrophic factor (ADNF)を、現在までに作製されたHN誘導体の中で最も効果の強いAGA-(C8R)HNG17のN末端に結合させて作製したものである。In vitroにおける細胞死抑制効果の検討の結果、HNGが各種のAD関連神経毒性に対して10nMで効果を示すのに対して、Colivelinはわずか100fM(HNGの1/100,000の量)で効果を示すことが確認された(Chiba et al., J Neurosci 25:10252-10261:2005)。In vivoでの効果を検討する為、上述のAβ反復投与モデルに対して脳室内投与を行ったところ、Aβによる記憶障害をHNGで報告された量の1/100程度で完全に抑制することが行動学的、組織学的に確認された。また、Aβ1-42を海馬CA1領域に直接注入するモデルを用いてin vivoにおける細胞死抑制効果を検討したところ、Colivelinの投与によって細胞死がほぼ完全に抑制されることを観察した。さらに、ムスカリン型アセチルコリン受容体阻害剤の一つである3-quinuclinidyl benzilate (3-QNB)による記憶障害モデルに対してColivelinを腹腔内投与したところ、記憶障害を統計学的有意に改善した為、Colivelinが末梢投与によっても有効であることが示唆された。
|