研究概要 |
リンは植物の生長に必須の養分である。植物はリンが欠乏すると、植物体内の全リン蓄積量の約3割を占めるリン脂質を減少させ、これに伴い糖脂質の一種であるジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)などのリンを含まない脂質を増加させ、根の細胞膜などを質的に転換していることが報告されている。これまで糖脂質生合成系がリン欠乏時に活性化させることは報告されてきたが、その前段階であるリン脂質の分解と糖脂質合成の基質であるジアシルグリセロール(DAG)の供給については不明であった。 研究代表者らはこれまで、主要膜脂質であるホスファチジルコリン(PC)等を分解してDAGを与える新規のホスホリパーゼC(NPC)ファミリーを真核生物で初めて単離し、その中からリン欠乏に応答するアイソザイムNPC4を見出して詳細な解析を行なってきた。その結果は昨年度末にNakamura et al., J.Biol.Chem.2005としてまとめた。 今年度、研究代表者らは新たに、低いレベルでリン欠乏に応答するNPC5を見い出した。NPC5はNPC活性を有しており、NPC4が細胞膜に局在しているのとは異なって、細胞内に遍在する可溶性タンパク質であった。また、NPC4欠損が表現型や脂質組成に変化をあらわさないのに対し、NPC5欠乏株はリン酸欠乏時ではDGDGの蓄積を減少させることがわかった。このことから、リン酸欠乏時の膜脂質の質的転換においては、NPC5がより重要な役割を果たしていることが示唆された。 今後はNPC5をさらに詳細に解析し、リン酸欠乏時における膜脂質転換にNPC5が果たす機能について、研究を進めていく。
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