近年、環境要因が生物の発生にどのように影響を及ぼすかを検証するモデル系として、表現型多型を示す生物が用いられるようになった。社会性昆虫のカースト分化は表現型多型の最も顕著な例であり、個体にとっての外部環境と遺伝的要因の情報を統合することにより、発生経路が制御されている。本研究ではシロアリの兵隊カーストについて分化時の形態の変化とその機構を形態学・組織学・分子生物学の手法を用いて多面的に解析した。特に、兵隊分化中の大顎組織で高い発現が見られる遺伝子HsjCibについて、ノーザンハイブリダイゼーション、リアルタイム定量PCR等を用いて、発現解析を行った。 また、ショウジョウバエ以外の昆虫では、遺伝子機能を解析するためのほとんど唯一の方法として、RNAiによる遺伝子発現抑制系の利用が盛んになってきている。このための技術開発として、プリンストン大学生態進化生物学部にて、表現型多型を示す昆虫のひとつであるエンドウヒゲナガアブラムシにおけるRNAiの実験を行い、技術を習得した。その成果を応用し、シロアリにおいてもマイクロインジェクションを用いたRNAiの実験系を構築し、幼若ホルモン類似体による兵隊分化誘導系と組み合わせ、HsjCibなどの重要遺伝子の機能解析を行った。 これらの成果は日本生態学会誌、昆虫ワークショップ06金沢、日本進化学会第8回大会(東京)、および第15回国際社会性昆虫学会議(ワシントンDC)において発表した。
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