研究概要 |
北海道に生息する外来サケ科魚類ブラウントラウトは強い攻撃性ゆえに在来サケ科魚類であるアメマスを排除することが懸念されている。一方で倒木などの視覚的障害物が多い場所では、アメマスとブラウンが同所的に生息できるという報告がある。その理由として、視覚的障害物が各個体の攻撃頻度を緩和していることが考えられた。そこで本研究では、アメマス単独域と両種の混在域でアメマスのハビタット利用における視覚的障害物に対する依存度を比較することで、視覚的障害物がアメマスに対するブラウンの影響を抑制するのに有効かを検討した。 調査は、千歳川支流紋別川で行った。紋別川には上流部に堰堤が設置されており、その上流側にはアメマスが単独で生息している(アメマス単独域)。堰堤下流側には、アメマスとブラウンが混在している(混在域)。両種共に淵を主なハビタットとして利用するため、単独域と混在域でアメマスとブラウンの個体数を淵ごとに調べた(単独域:109個,混在域:142個)。また、淵の環境要因として、淵の面積、障害物の面積・個数、水深、河床、流速を計測した。アメマスの個体数を従属変数、環境要因とブラウンの個体数を説明変数として重回帰分析を行った結果、単独域ではアメマス個体数に対して淵面積が正の影響を与えていた。一方、混在域ではアメマス個体数に対して障害物の個数が正、ブラウン個体数が負の影響を与えていた。 単独域では、ブラウンの影響がないためにアメマス個体数は単純に淵面積の影響を受けていると考えられる。混在域では、ブラウンはアメマス個体数に負の影響を与えていたが、障害物は攻撃行動を緩和するためアメマス個体数に対して正の影響があると考えられる。以上の結果から視覚的障害物は、ブラウンとアメマスの種間競争を抑制し、ブラウン存在下でのアメマス個体数維持に有効であることが示唆された。
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