環境依存的な形態的可塑性について、エゾアカガエル幼生とそれを捕食するエゾサンショウウオ幼生をモデル生物とした野外調査・室内実験研究を行った。野外調査により、自然の池群集において2種の両生類幼生間の軍拡競争的形態発現がいくつかの環境条件下で生じていることを確かめた。カエル幼生に比べてサンショウウオ幼生のサイズが大きいとき、サンショウウオ幼生の密度が高いとき、他の相互作用種(上位捕食者や下位被食者)の密度が低いときに、2種の対抗的形態が強く発現する傾向にあった。これらの条件下では、サンショウウオ幼生による高い捕食圧が実現し、その結果として2種の形態反応が促進されていると考えられた。そこで、室内実験により、2種のサイズや密度、上位捕食者の存在の有無、下位のエサ生物量に応じて、2種の形態反応と2種の捕食-被食相互作用がどのように左右されるのか調べた。その結果、サンショウウオ幼生のサイズが大きいときや彼らの密度が高いときに、捕食されるカエル幼生の数が多く、生存個体の防御形態発現が強いことが明らかとなった。また、環境中に上位捕食者が存在するときやカエル幼生のエサ生物が多いとき、2種の捕食被食関係は緩和され、それに応じて対抗的な形態反応が抑制されていた。これらの結果は、エゾサンショウウオ幼生とエゾアカガエル幼生との間でみられる対抗的な形態変化は、2種の密接な相互作用が実現したときに発現されるものであり、それには生物群集内の他の生物種が深く関わっている可能性を示唆する。 捕食者特異的な誘導形態発現とその柔軟性に関する最近の研究の成果を統合し総説としてまとめた。従来の捕食者誘導防御の進化条件に加えて、形態を一度変化させた後の柔軟性が可塑性の進化にとって重要であることを主張し、今後の研究の展望を述べた。
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