シロイヌナズナのシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)遺伝子では、新生ポリペプチドがcisに作用することで翻訳中のリボソームが一旦停止し、それに伴ってmRNA分解が促進される。このような翻訳停止と共役したmRNA安定性制御は大変珍しく、その詳細な分子機構の解明は大きな課題である。CGSmRNAの安定性制御は小麦胚芽の試験管内翻訳系で再現され、そのエフェクターであるS-アデノシルメチオニン(SAM)の添加に応答して5'領域を欠いたmRNA分解中間体が複数種類蓄積する。今年度はこれらの分解中間体の解析により以下の成果を得た。 1.翻訳停止後、mRNAが切断されるのか、5'-3'方向に連続的に分解されるのかを検証するため、酵素による分解反応を受けにくいチオ化ヌクレオチドをmRNAの5'領域に挿入して5'-3'方向の分解を阻害した。すると、分解中間体の5'末端位置と、その全長mRNAに対する蓄積量比は変化しなかった。このことから、エンドヌクレアーゼがCGSmRNA分解に関与することが示唆された。 2.複数種類存在する分解中間体のうち、最も短いものの5'末端はSAMに応答して停止したリボソームの5'側内部に位置する。また、それぞれの分解中間体の5'末端は1つのリボソームがmRNAを覆う範囲(約30塩基)分ずつずれている。翻訳開始阻害剤等によりmRNA上のリボソームの数を減少させたところ、分解中間体の種類は減少した。またショ糖密度勾配遠心法により翻訳後の反応液を分画し、それぞれの画分において分解中間体を解析したところ、リボソームの数が多い画分ほどより長い分解中間体が検出された。以上の結果から、SAMに応答して停止したリボソームにより進行がさえぎられ、その後ろから翻訳を進めていたリボソームも次々と連なって停止し、それぞれの位置に対応してmRNAが分解されることが示唆された。
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