本研究は、マルチメディア時代における伝統的な身体文化の位相に関して、南インド・ケーララ州北部の儀礼パフォーマンスのテイヤムをその分析対象とし、ローカルで伝統的な身体文化が観光産業や大衆消費社会、政治的文脈や移民社会といった現代的事象との出会いと接合のなかでいかなる様相を呈しているのか、その実態を多角的に解明することを目的としている。 本研究の研究代表者は、平成17年6月よりインド・ケーララ州のカンヌール大学人類学科に訪問研究員として所属し、参与観察とインタビューを中心とした現地調査を主な研究方法として用いた。滞在期間中は、すでに親交のあるテイヤム実践者宅に間借りし、日常生活を共にしながら、彼らの生活状況、日/月/年間のスケジュール、儀礼の諸準備、衣装作り、練習風景、経済的側面、当該社会とのつながり方や社会的地位、主催者との関係性などを観察・インタビュー記録し、データを収集した。また、彼らが関与する寺院については、儀礼の詳細、実行委員の構成や運営形態、報酬などを調査すると共に、儀礼の映像をビデオカメラ等で記録した。さらに、各種機関が開催するセミナーや文化イベント、ケーララ州外で行われた儀礼の参与観察並びにその映像を記録するかたわら、テイヤムの関連商品や宣伝広告の収集、インターネット上のウェブサイト検索などを通じた、多様に表象されているテイヤムの実態を把握した。 本研究は、テイヤム実践者の視点に依拠したデータ収集と多様な文脈におけるテイヤムの表象形態を探ることで、先行研究が論じてこなかった実践者達の多様な姿や彼らが抱える諸問題が明らかになっただけでなく、今日のテイヤムの多元的な消費動向の実態を明確化することが可能となった。こうした成果の一部は、カンヌール大学外国研究学科におけるセミナーにおいて公表した。
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