研究概要 |
本年度は,まず地方政府の行動に重要な影響を与える地方交付税に着目して研究を行った.湯之上(2005)「特別交付税における官僚の影響に関する分析」では,地方交付税の中でも特別交付税に注目し,官僚の行動を理論モデルで記述した上で,特別交付税の都道府県への配分に官僚の影響が存在していることを実証的に示した. 次に,日本財政学会第62回大会報告論文である倉本・小川・湯之上(2005)「地方交付税制度が歳出行動に与える影響」では,市町村データを用いて,地方交付税の不交付団体と交付団体とでは歳出行動が異なっていること,不交付団体の方が歳出を抑制していることを示した.こうした結論は,不交付団体に居住する人口を増加させるとした現在の改革の方向性を支持するものであり,興味深い結果であった. また,福重・湯之上(2006)"Valuing Medical Schools in Japan ; National versus Private Universities"では,大学医学部を受験する学生の行動をモデル化した上で,大学医学部による教育の付加価値を推計した.教育による付加価値を推計することは,教育によって人的資本がどのように形成されているかを数量的に示すことであり,経済成長について考察する上で重要である.推定の結果,旧帝国大学や旧制医科大学,旧制医学専門学校の付加価値が高いこと,また国公立大学と私立大学では,国公立大学の方が高い付加価値を学生に与えていることを明らかにした.また,国公立大学が民営化された場合の影響についても,国公立大学の授業料が私立大学並に引き上げられる場合を想定し,シミュレーションを行った.民営化されることによって現状よりも国公立大学と私立大学の難易度の差が小さくなることを示した.
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