研究概要 |
本年度は、既存の近接場ラマン顕微分光装置の照明光学系および分光器への導入光学系の最適設計を行い、光学系試作を行った。この結果、高い迷光除去比、低波数振動領域観察、ラマン散乱光検出感度の向上を実現した。さらに、装置の防震・防音化を図り、原子間力顕微観測の高安定化を果たした。 さらに、最適化した近接場ラマン分光装置を用いて、カーボンナノチューブのリングブリージングモード(RBM)に対応するラマンバンドで近接場ラマンイメージングをおこなった。RBMの振動数はCNTの直径に逆比例することから、3つの異なる振動数(195cm^<-1>,244cm^<-1>,278cm^<-1>)で取得した近接場ラマンイメージは、それぞれ1.27nm,1.02nm,0.89nmの直径を有するCNTの空間的分布を示すことがわかった。この結果から、バンドル内のCNTは、直径によって分布が異なることがわかった。この時、空間分解能は40nmに達し、回折限界を10倍以上超えたナノラマンイメージングを実現した。さらに、励起波長に対して非共鳴条件下であっても、金属ナノ探針先端での電場増強効果だけでCNTのラマン散乱光を検出することにも成功した。 局所的な圧力印加によるラマンバンドの変化を調べるために、単一のカーボンナノチューブバンドルに、銀ナノ探針先端で段階的に応力を印加しながらラマンスペクトルを測定し、CNTのラマンバンドの変化をin situで観察した。その結果、2.4nNの圧力を印加した時カーボンナノチューブの円周方向の振動モードに起因するラマンバンドが18cm^<-1>だけ低波数側にシフトすることを見出した。さらに、金属ナノ探針により印加される力は、圧力に換算すると1Gpa以上に達することがわかった。このことから、応力印加を用いた近接場ラマン分光は高圧ラマン分光法を擬似的に実現していることがわかった。
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