21世紀の化学に要求される研究課題の一つとして、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒を用いない「環境調和型水中物質変換反応の開発」が考えられる。申請者は、これまでに水溶性遷移金属アクア錯体を触媒とし、反応をpHで制御する様々な環境調和型触媒反応を開発してきた。本研究では、これまで培ってきた炭素-炭素結合、水和、還元反応のノウハウを基にpH連続制御による触媒反応を行うことで、医薬中間体として非常に有用な天然、非天然の光学活性アミノ酸を簡便かつ安全に合成することを目的とする。具体的に、本研究では、1)炭素-炭素結合による様々なアセチレンカルボン酸の合成、2)アセチレンカルボン酸の水和反応によるケト酸の合成および3)ケト酸の不斉還元的アミノ化反応による光学活性アミノ酸合成をpH連続制御してワンポットで行う。なお、本合成法は、これまでに無い全く新しいタイプの環境調和型アミノ酸合成法である。 今年度行った研究結果を下に示す。 (1)水中での炭素-炭素結合形成反応の開発 本研究では、新規水溶性パラジウムアクア錯体を合成し、ホスフィンを有するパラジウムジアクア錯体が様々な炭素-炭素結合形成反応に対して非常に高活性であることを見出した。(鈴木-宮浦反応では、水中均一系で世界最高値を達成した) (2)アセチレンカルボン酸からケト酸、アミノ酸化合物へのワンポット合成 不飽和脂肪族からのケト酸合成は、金属触媒あるいは酵素を用いても不可能であったが、本研究では、ルテニウム三価の金属塩を用い、アセチレンカルボン酸の水和反応を行うことで、ケト酸の触媒的合成について世界で初めて成功した。さらに、この反応では、ワンポットで連続的にアミノ酸へ合成できることを見出した。
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