研究概要 |
先行研究の諸成果ならびにフィールドワークの手法によって得た一次資料をもとにして、現代ケニアにおける裁判外紛争処理の現状とその再編過程を明らかにし、かつ法人類学一般に理論的寄与を行うという本研究の目的に鑑み、初年度にあたる平成17年度は、以下の研究成果を得た。 1.日本法社会学会学術大会において多元的法体制をテーマとしたミニシンポジウムを組織した。研究成果は、査読を経て学会誌『法社会学』64号に掲載決定した。当論文では、ケニアの事例分析をふまえ、形式的規定と実質的理解を鍵概念とする法理論ならびに「方法論的当事者主義」による紛争過程分析の基本方針を提示した。 2.イゲンベ社会の農業生産ならびに土地所有に関する英語論文を刊行し、裁判外紛争処理の研究に向けた基礎固めを行った。また、メル博物館(ケニア国立博物館分館)を拠点に、慣習法と伝統的知識の活用に関する共同研究を開始した。その一環として伝統的宣誓/試罪法による紛争処理に関する英文論文を執筆中である。 3.国内研究機関・図書館に所蔵されていなかった稀覯書Arkell-Hardwick著、An Ivory Trader in North Kenia(1903,Longmans & Co.)を海外古書店に発注し、20世紀初頭のメル社会における慣習法運用の実態を知るための貴重な史料を得た。本書は国立民族学博物館図書室に収蔵される。 4.11月21日に実施されたケニア新憲法案の国民投票に関する政府刊行物、報道資料を収集した。国民投票において新憲法案は結果的に否決されたが、案で示されていた司法改革の方針、とりわけ慣習法裁判所、キリスト教裁判所などの新設をめぐる将来展望について、ADRの技術移転の動向と関連付けながら分析している。
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