日本史においては従来中近世移行期と称されつつも中世・近世の区分により断絶的であった15〜17世紀を一体的に捉える視点に基づき、当該期における貨幣流通秩序の変容から、社会経済の構造的変遷を追究した。 とりわけ日本列島で統一的な流通秩序が形成・維持されていた状況の変化によって15世紀後半に新たに撰銭が社会問題化し、「悪銭」と呼ばれる銭貨が史料上頻出する事実について、その具体的事例の把握と構造の解明を行った。その結果、中世の経済構造を支えた隔地間流通が戦乱等による治安悪化によって不安定化し、また各地において地域権力としての戦国大名等が勃興することによって流通秩序の地域分化が発生したことが最大の原因であったことを指摘した。すなわち各地域において独自の銭貨供給や流通統制が発生し、それによって登場した「地域銭貨」が他地域へ流出した時に「悪銭」と認識されたものと捉えたのであり、「悪銭」の登場がかかる流通構造の変容に伴って出現したものであることを明らかにした。 また16世紀以降に金・銀が貨幣として流通しはじめる点について、中世の隔地間決済を支えた為替のシステムが流通路不安によって動揺し、その代替として金・銀が採用されたことが、貨幣として流通する要因になったことを指摘した。 このほか、当該期の社会秩序の変容過程を明らかにするため、戦国大名大内氏による政策決定の手順について検証し、また、加賀国を対象として在地社会秩序の解明も行った。 以上当該期の社会構造の変容を総合的に把握した上で、貨幣経済構造に主眼を置く問題関心から研究論文を作成した。
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