平成17年度中で最も特筆すべき研究成果は、二〇〇五年九月に(株)情況出版社から、別冊特集号として『レーニン<再見>あるいは反時代的レーニン』を発行したことである。本企画において研究代表者は、長原豊法政大学教授とともに全体の編集企画、寄稿および翻訳を担当した。寄稿した論考は『革命の欲動、欲動の革命-レーニンとフロイト』であり、レーニンと同時代思想との関係を考察するものである。同特集号は、スラヴォイ・ジジェク、エチエンヌ・バリバール、アラン・バディウ、フレドリック・ジェイムソン、中沢新一、小泉義之、等々といった第一線で活躍する内外の研究者・思想家の諸氏の協力を得ることに成功し、その内容は充実したものとなった。参加した論者が提起した論点は多岐に渡っているが、その多くは、レーニン思想の歴史的意義、そしてそれが現代世界に対して問いかける問題を取り扱っており、啓発的である。また、本書の刊行を記念して、九月に東京で、十月に京都でシンポジウムが催行され、研究代表者はそこで基調報告を行なった。その内容は『情況』二〇〇六年一・二月号に掲載されている。 その他、平成17年度中に研究代表者が発表した論考のうち主なものは、『アソシエ』誌第16号に掲載された、『「物質」の思想が目指したもの-レーニンのスプレマチズム』である。同論考は、レーニンの哲学的テクストに現れた思想と、ロシア・アヴァンギャルドの芸術家、カジミール・マレーヴィチの世界観を比較検討したものであり、ロシア革命の思想的基盤を多角的に検討するという目的を念頭において書かれたものである。
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