日本近代において都市化が急速に進行し、劇的に都市空間が変容した戦前期において都市居住者はどのように建築/都市を認識し、表現したのか。このことを文化的な運動の分析によって明らかにし、近代都市空間の編成を多様な主体の交渉の過程として考察することが本研究の目的である。この目的を達成するため、今年度以下のような研究活動を行った。 1 歴史学を中心に隣接諸分野を含む研究文献の検討、現在の研究状況の把握につとめた。 2 対象時期の建築分野を中心とした技術者をめぐる環境を明らかにするために『東京府統計書』等の統計資料の収集を進め、都市空間の変容とそれに対応する技術者養成の実態についての分析を行った。このことは次年度以降も継続する予定である。 3 従来研究を進めてきた創宇社建築会など官庁等に勤務する、中間的な地位にある建築技術者の運動について、1930年代の動向に関する史料調査を行った。NPO西山夘三記念すまい・まちづくり文庫における史料調査、収集により、東京において運動を展開していた彼らと京都帝国大学の学生グループや大阪の民間企業に勤務する建築技術者グループの関係がより具体的に明らかになり、相互に影響しながら同時期の運動における思想、作風が形成されていることが確認された。 4 「多様な主体」という視点に関し、1910年代から1920年代にかけて大阪を中心に関西で活動した住宅改造会について機関誌『住宅研究』を中心とした関連史料を大阪府立中之島図書館および神戸市立中央図書館にて調査、収集を行った。 以上の研究成果の一部について、首都圏形成史研究会小委員会都市装置研究会において、「1920年代における文化運動としての「建築運動」-創宇社建築会を中心に-」と題して、また、近現代史研究会において、「近代日本における建築技術者の文化運動」と題して口頭発表を行った。 以上の研究成果は今後、研究論文として積極的に発表していく予定である。
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