急速に都市化が進んだ時代としての戦前期に、都市居住者はどのように建築や都市を認識し、表現しようとしたのか、建築技術者たちの文化運動を研究対象とし、多様な主体の交渉の過程として分析することが本研究の目的である。最終年度はこれまでの研究を総合する作業を行ったほか、とくに下記の研究活動を行った。 1創宇社建築会に関する史料調査・撮影 最も重要な研究対象である創宇社建築会に関する一次史料を所蔵している、竹村文庫への訪問調査を行い、史料調査・撮影を行った。従来研究の進んでいない戦時、戦後の史料を対象とした。撮影史料は整理、翻刻を進めた。その結果、創宇社の結成過程に関する新事実が明らかになった。また戦時期の運動についての実態解明の先鞭をつけた。これらの成果は今後発表していく。 2第一次世界大戦から関東大震災にかけての建築界における思想傾向の再検討 戦前期の建築技術者の文化運動の背景としての思想傾向について、『建築世界』誌をはじめとする雑誌記事を素材に検討した。同時代の建築界での建築論の展開において、教養主義的思想傾向のなかで重要な位置を占める生命主義的思想傾向の影響が色濃く、それが大戦中から戦後にかけての産業化の趨勢に対する批判として現れていたことを指摘し、またそこでのナショナリズムの位置について検討した。このことは「建築論における生命主義」で発表した。 3関東大震災とその後の「復興」の表象についての検討 創宇社建築会が結成され、活動した時期の都市や建築に対する社会意識について、新聞、雑誌、展覧会目録などを素材に検討した。震災後まもなく、文化界においても「復興」をキーワードとした多様な表象が生産されていたことを指摘、それが社会意識に与えた作用について検討した。これについて、東京歴史科学研究会大会で口頭発表の予定である。 これまでにまとめた研究の成果については今後も積極的に発表していく。
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