今年度は、これまでの研究にもとづいて近世仏教思想家であった普寂の思想をまとめると共に、丸山真男にはじまる従来の近世思想史像を見直す作業を開始した。本研究は、仏教思想から近世思想史における仏教思想に着目することにより、冷戦時の政治史的視点とは異なる、哲学・宗教的な新しい視点からの思想史の構築に寄与するものである。 2006年4月〜8月には、昨年度に引き続きアメリカのプリンストン大学宗教学部に在籍し、研究活動を行った。具体的には、同時代の浄土宗僧侶と比較しつつ、これまで未詳だった普寂の伝記(論文「徳門普寂」『インド哲学仏教学研究』14号)と、普寂思想の根幹である華厳思想と大乗仏説論(口頭発表・紀要「普寂の大乗仏説論」日本宗教学会)を明らかにした。 9月帰国後には、新たに論文を二本書き下ろし(「近世思想史における仏教の意義」「近世浄土宗団の保守化」)、博士論文をもとに新たな著作としてまとめた。その結果として、日本学術振興会・研究成果公開促進費・学術図書部門に出版助成を申し込んだ。本研究は、戦後の丸山真男にはじまる政治思想史を越えて、従来排除されてきた仏教思想を組み込む新しい日本近世思想史を構築することを目指している。著書では、近世後期の思想史的課題である近代的な合理性について考察し、仏教における内なる近代化の起点を論じる。近世後期の護法論から、宗教と科学の相克についての仏教側の答えを提出し、それが近代に引き継がれていくことを示すと同時に、その思想を支えた実践行について論じ、近世仏教の宗教性を論証するものである。 12月〜2007年3月末まで、現在の近世思想史の基礎となっている丸山真男の近世思想史を見直す作業を本格的に開始し、来年度にはこの研究成果を学会で発表した後に、論文発表することを予定している。
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