本年度の研究実績は主に海外現地調査と研究発表、研究ノートの3つに分けられる。 海外現地調査は今年度10月〜11月と、1月〜3月の2回行った。この二回でチノ語悠楽方言、アチャン語梁河方言、ハニ語墨江方言豪尼下位方言の調査を実施した。チノ語は主に自然発話を中心に採集し、またその発話データを話者に聞いていただき、対訳をつけていく作業を行った。この作業は作例では現れないような文をも採集し、現在執筆を進めているチノ語悠楽方言の文法に盛り込むためのものである。またアチャン語は1300語程度の語彙を採集することができたため、やや簡易ながら音素目録を立てるには十分な量のデータがそろったと見てよいだろう。ハニ語の調査では語彙約1650語、文例約220文が採集できた。比較的短い期間でありながら、ハニ語豪尼土語の基礎的構造の概観を掴むのに必要なデータがそろったと見てよい。いずれも次年度も継続調査を実施する予定である。 研究発表は4回行った。いずれもチノ語の文法における諸問題を扱った。今年度は疑問助詞の振る舞い(第130回日本言語学会)、動詞連続(第6回チベット=ビルマ言語学研究会)、名詞述語文(the 38^<th> International Conference on Sino-Tibetan Languages and Lingusitics)、および後置詞=va55(the 11^<th> Himalayan Languages Symposium)に関連する内容を発表した。 更に研究ノートとして『京都大学言語学研究』に<<漢語對基諾語的影響---語法方面--->>を投稿した。これはチノ語が漢語から受けた構造的借用を主に論じたものである。特に類別詞や語順などの面において一部漢語の影響が現れていることをまとめている。
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