モーリス・ブランショの著作を通して文学における根源的な「イメージ」の問題の諸相を探るという本研究の目的に沿って、主として以下の研究を行った。 1、ブランショがバシュラール『空間の詩学』を論じた論文「夜のように広々とした」(1959)の読解を中心として、ブランショとバシュラールの詩学におけるイメージ概念の相違を解明した。 2、ブランショの40年代のマラルメ論(『火の部分』所収)から、マラルメの詩論のうちに見出された「逆説的な物体(objet paradoxal)というイメージを抽出し、それを梃子に、ブランショのマラルメ論とヴァレリーのマラルメ論とを比較対照した。それにより、ブランショの詩論および言語論が、一面しか現れていないにもかかわらずすべての面が見られるという逆説的な「イメージ」との相関によって成立していることを明らかにし、「詩」と「イメージ」の関係を描き出した。 3、ブランショの代表的文学論である「オルフェウスの注視」(1953、『文学空間』所収)においてオルフェウス神話が供犠の物語として読まれていることにまず注目した。そしてその読解を、ブランショの小説および批評におけるアブラハムのイサク供犠への言及、および、カフカがひとりのアブラハムとして論じられているカフカ論と接続することにより、ブランショにおいては文学の成立に供犠が必要であるとされるが、その供犠は不可避的にある種の「イメージ」をもたらすものであること、したがって、ブランショの文学論はユダヤ教的な「表象の禁止」の思想としては読みえず、むしろ文学にとっての「形象」の不可避性を説く理論であることを明示した。
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