研究概要 |
本年度は、モーリス・ブランショの著作を通して文学および芸術における根源的なイメージの諸相を探るという目的に沿ってこれまでおこなってきた研究の成果を数本の論文にまとめる(1)とともに、その成果に基づいて多様な領域に視野を広げ、ブランショ研究の立場から研究・発表をおこなう(2)ことで、文学論の射程を領城横断的に広げるに至った。これらは主として以下の研究に要約される。 1.本研究の集大成となる発表「イメージの〈イリア〉-サルトル、レヴィナス、ブランショ」および論文≪≪Ilya≫ de 1'image-Sartre, Levinas, Blanchot≫では、イメージ論「想像的なものの二つの解釈」(1951)に現れるブランショのイメージ概念を同時代の思想家サルトルおよびレヴィナスのイメージ概念と比較検討することにより、その特徴を浮き上がらせた。従来、ブランショのイメージ概念はサルトルのそれへの対立概念として捉えられることが多かったが、本論では、サルトルへの応答箇所を丹念に読解するとともにレヴィナスの芸術論との関係を考慮に入れることにより、たんなる対立関係には留まらない三者の錯綜した関係を明らかにした。 2.(1)ブランショのマラルメ論をめぐる前年度の研究から、文学言語は「一面しか見えないにもかかわらずすべての面が見える」という逆説的な様態で「イメージ」として存在しうることが導き出された。このことを踏まえ、発表「「逆説的なオブジェ」としての文学言語-ブランショにおけるマラルメとジャコメッティ」では、この「イメージ」と、ブランショがジャコメッティの彫刻に見出す「イメージ」とが、見ることを可能性にする距離の現出であるという意味で同一の構造を有していることを明らかにし、文学言語と造形芸術との通底性を示唆するに至った。 (2)従来、ブランショとシュルレアリスムとの間にはあまり積極的な関係は見出されてこなかった。しかし、ブランショはたびたびシュルレアリスムに言及しているのみならず、芸術作品や「イメージ」について語る際にはきまって「毀れた物品」へのブルトンの執着を想起させている。論文「言語のアポリアから言語の魔術へ-ブランショとシュルレアリスム」では、「遺骸」をモデルとするプランショの「イメージ」概念に見られるシュルレアリスムとの親近性を検証した。
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