平成19年度研究計画の骨子は、ポストコロニアル的視点から書かれたアクチュアルなウクライナ詩文学論が増補されていくように研究を展開させることであったが、これはとりわけ平成18年度以降同時的に推し進めてきた人文地政学的アプローチの成果もあって、〈辺境という名のトポス論〉〈あまつぶのうた論〉等の独創的な思想的命題を生み出すに至っている(11. 研究発表の項を参照)。それは取りも直さず、ウクライナというトポスをひとつの思想的テキストとして捉え、これを学際的に解読しようと試みた所産であって、テキストとしての文学作品を研究・分析するのみならず、その意義を全体史的な文脈・座標に置き直して命題のさらなる普遍化・根源化を図った結果に他ならない。 そして平成19年度に行なった研究を通して、次のような確信を強めていった。それは第一に、ウクライナとは単なる地名ではなく、ウクライナという認識的空間を東欧平原に出現せしめた〈周縁と内在性の構造〉を読み解くための重要な指標であるということ、第二に、〈ウクライナ=辺境〉というトポスを構造的た読み解くことは、当のウクライナに限らず、辺境という異名もしくは語源を有する世界各地の〈辺境=ウクライナ的トポス〉における歴史的動態、とりわけその〈エクソダス=脱出〉の特徴的構造を浮かび上がらせるための非常に有効な手がかりとなるということである。
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