今年度の研究では、主に次の2つの成果が得られた。 第一に、高校3年生を起点としたパネル調査のデータを用いて、大学進学選択の規定要因を分析し、成果をワーキングペーパーにまとめた。明らかになったのは、性別や家庭の所得、学力など個人属性がそれぞれ進学行動に影響していることのみならず、そうした要因をコントロールしても、出身県における大学教育供給のあり方の違いによって進学チャンスが異なることである。 第二に、同じ調査データを用い、日本学生支援機構の第一種奨学金(予約採用)に申し込み、そして採用されるのはどのような家庭背景をもつ高校生なのかという問題を分析した。成果は2008年5月開催の日本高等教育学会大会で、「予約奨学金に採用されるのは誰か?」と題して発表する。奨学金が低所得層からの大学進学を促すか否かを検討するには、その前提として、必要な人に奨学金が届けられているかを検討しておく必要があるためである。分析の結果、次の四点が明らかになった。第一に、所得や学力をコントロールしてもなお、都道府県別奨学金採用枠の相対的に多い県に住んでいる高校生ほど、予約奨学金に申請する可能性が高い。しかしながら第二に、採用枠の多寡は、(申請の有無にかかわらず)予約奨学金の採否に影響を及ぼさない。第三に、採用枠の少ない県に住んでいる高校生ほど、予約採用制度のことを十分知らない傾向にある。したがって第四に、採用枠の少ない県ほど予約採用制度について十分知られておらず、そのため、(優れた学生で経済的理由により修学に困難がある者であっても)申請も行わない、といった家庭が少なくないことが示唆される。
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