米国において、大陸間弾道ミサイルの開発の際に確立されその後他分野への導入が図られたシステム工学は、巨大技術計画の着実な実施を可能にした戦後の主要な技術上の革新であるが、それに関する社会史的・国家横断的な検討はこれまでほとんどなされていない。本研究は、米国及び日本におけるシステム工学の導入・実施について、それが各国の社会規範や組織文化の特質を反映していたことを示すことを目指している。本年度は、わが国の鉄道分野におけるシステム工学の導入について研究を進めた。まず、第二次世界大戦前後の国鉄における鉄道車両の振動に関する研究に関する歴史的研究を行った。本論文においては、国鉄の車両開発部門において戦後大きな役割を果たし後に技師長になる島秀雄の役割などについて着目し、戦前戦後の国鉄の技術文化の変化を考察した。本論文は、国内の学術雑誌科学史研究に8月に投稿したが、査読が長引き、いまだ受理されていない。つづいて、東海道新幹線の実現に至る政策過程に関する研究を行い、その研究を踏まえ、東海道新幹線建設期を中心とした時期における国鉄技術者のシステム観に関する論文を構想し、その執筆をほぼ終えた。本論文執筆のための研究の過程では、鉄道技術総合研究所図書館等における文献調査のほか。十数名の旧国鉄技術者に対するインタビューを行った。本論文は、まもなくHistoria Scientiarum誌に投稿する予定である。なお、昨年度執筆し米国の専門学術雑誌Social Studies of Scienceに投稿した宇宙分野におけるシステム工学の日米比較に関する論文について数次にわたる査読コメントに対応した結果、同論文は受理された。この論文は次年度出版される予定である。
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