本年度は、主に欧州合同原子核研究機構(CERN)において、2006年度以降に反陽子減速器ADを用いて実施される予定の実験に備えた、様々な新しい装置の設計と製作を行った。まず反水素原子の大量合成に必要な、超伝導ニオブトラップの電極と低温部分、超高真空チェンバーなどの設計を行った。またトラップの電極の模型を製作して、その高周波特性をベクトルネットワークアナライザーを用いて系統的に測定した。さらにトラップに反陽子を注入する際に必要なMOS-FET型高圧アンプ回路の設計と試作を行った。次に、反水素に照射する大強度紫外レーザー発振器、レーザーのパルス幅を1ナノ秒以下まで圧縮する誘導後方ラマン散乱セル、レーザーの周波数を測定するヘテロダインスペクトロメータなどの設計と製作を行った。また、反陽子ヘリウムイオンのレーザー分光を行うための大強度超狭線幅チタンサファイアレーザーを開発して、波長850ナノメートルで100ミリジュールという出力を得ることに成功した。そして、BBOやBIBOなどの非線形光学結晶を用いて、213ナノメートルという極紫外線の生成に成功した。反陽子ヘリウム原子を生成するための極低温ヘリウム標的を建設したが、これは直径70ミリの紫外線透過型合成石英窓を3つも有する点が特徴的である。これらの窓は、平面度が60ナノメートル以下になるように極めて高い精度で研磨されており、10ジュール毎平方センチ以上の大強度レーザーにも耐える設計になっている。さらに、反陽子原子が消滅した際に生成するパイ中間子を、従来よりも高い時間分解能で捉えることができるチェレンコフカウンタを開発した。
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