本研究の目的は、真核生物の初期のゲノム進化の一端を明らかにするために、単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeのゲノムにおけるイントロンおよび代謝系遺伝子のレパートリーに着目し、真核生物のイントロンがどう進化してきたか、またゲノム中に見られる遺伝子レパートリーの多様性がどのように成立したのか、を解明することである。 本年度は、昨年度にイントロン位置を確認したイソプレノイド代謝系7遺伝子について予定を繰り上げて系統解析を実施した。この代謝系は色素体に存在しているが、しかし緑色植物アラビドプシスにおいてはシアノバクテリア由来の遺伝子だけでなくプロテオバクテリアやクラミジア由来の遺伝子も用いられており、多様な遺伝子レパートリーを持った系の実例である。本年度の解析によって、これら非光合成性バクテリア由来の遺伝子は色素体を持つ真核生物で広く共通に用いられていることが示された。したがって、この代謝系でみられる遺伝子レパートリーの多様性は、比較的最近に起きた遺伝子水平転移現象によってではなく、色素体が成立した初期の時点でゲノム中にクラミジアなどの遺伝子を取り込むことによって成立したことが明らかになった。さらに一般に紅藻由来と考えられる二次共生色素体を持つ珪藻や渦鞭毛藻において、紅藻よりむしろ緑色植物に近縁な遺伝子を用いているケースが明らかになった。また貝類の寄生虫パーキンサスには色素体が知られていないにもかかわらずこの遺伝子群が存在しており、かつ渦鞭毛藻の色素体移行シグナルと類似の配列を持つことが明らかになった。以上の成果は、本研究の目的の後半部を達成し、かつ色素体の成立や進化に関する重要な知見を得たものといえる(投稿準備中)。 上記の通り、系統解析に基づく示唆を詳細に検討することを優先したため、各種生物におけるイントロン位置の確認については遅れてしまっている。
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