グルココルチコイドの生理学的・薬理学的作用には組織特異的な遺伝子発現変化が重要な役割を果たしている。このグルココルチコイド応答性遺伝子発現は、核内レセプタースーパーファミリーに属するグルココルチコイドレセプター(GR)によって調節されている。しかしながら、特に内在性遺伝子の調節に関して、非常に複雑で精緻なグルココルチコイド作用の基盤となる分子機構の詳細は解明されていない。そこで本研究では、腎臓由来の293細胞ではコルチコステロイドに応答してmRNA発現が上昇するが、肝臓由来のHepG2細胞では応答しない遺伝子であるatplalおよびscnnlaを用いて、組織特異的なグルココルチコイド応答性遺伝子発現の制御機構について解析した。 核タンパク質HEXIM1は少なくとも二種類の独立した機構によって遺伝子発現を抑制する。すなわち、positive transcription elongation factor b(P-TEFb)の抑制を介する機構と、GRの抑制を介する機構である。HEXIM1の発現量は肝臓やHepG2細胞において。腎臓や293細胞よりも大きいため、組織特異的なGR標的遺伝子発現調節におけるHEXIM1の役割を解析した。HepG2細胞におけるatplalとscnnlaのホルモン応答の欠如はGRの強制発現によって回避された。またこのときHEXIMIを共に強制発現させると応答が再び抑制された。従って、GRとHEXIM1の発現量のバランスがこれら遺伝子のホルモン応答性に関与していることが示された。実際、HepG2細胞のHEXIM1をノックダウンすると、atplalとacnnlaはホルモンに応答してmRNA発現が上昇した。さらに、HEXIM1はatplalとscnnlaのプロモーターへのGRリクルートメントを阻害することを示した。この阻害にはHEXIMlのP-TEFb抑制機能よりもGRとの相互作用機能が重要な役割を果たしている。 以上より、HEXIM1は、少なくともatplalとscnnlaについて、組織・遺伝子特異的なグルココルチコイド応答性をGRとの直接相互作用を介して制御することが示された。
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