今年度は、人口増加の圧力が農村制度とりわけ共有資源利用形態の在り方に如何なる影響を及ぼすかの問題の解明に向けて、現地調査と基礎理論研究に集中した。以下、順次その成果を簡単に述べる。 (1)フィールド調査を中国雲南省および鹿児島県甑島において行った。前者では80年代初頭の改革解放による集団有農地の個別配分が現在の各家族の経営に如何なる規定性をもっているかを個別調査によって調べた。 後者は、集落有農地の利用権を数年毎に各農家に割り当てる慣行が島の複数の集落において戦後しばらく残存した興味深い事例である。各集落で当時の責任者にインタビューし、また集落有文書や村誌を利用することによって、具体的な配分方法や豊度分布、および農家間の生産力格差を抽出した。 両事例ともに、次に述べるモデルによって分析中である。 (2)理論面では、狭小な耕地を農村共同体のメンバーが分け合って利用しなければならない状況を一般的に考察するモデルを構築した。特に、上述(1)の甑島事例を想定したモデル・バージョンを春季TEA学会で報告した。 既往のモデルは耕地の狭小化がその利用管理の在り方をどう規定するかの問題に対して「私有権の成立」という極めて偏狭な法則を当てはめるのみであり、報告者自身のフィールドを含め大きなバラエティーを含む現実の諸事例に対し著しく説明力を欠いていた。報告者のモデルは上述(1)の2事例を説明するためのみならず、既往モデルによって説明が困難であった先行諸事例の理解に貢献することも目的としている。この立場から、現在、改革後中国の土地制度に関する先行研究で用いられたデータを報告者のモデルに基づいて解析している。
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