研究概要 |
農村共同体における土地利用・土地配分の構造およびその人口圧力下における変容過程を明らかにするために,以下の通りに研究を実施した。 まず準備として,資源一般の配分・利用を規制する共同体的メカニズムに関する事例研究を,主に文化人類学の領域を対象として広く渉猟した。成果として,灌概コモンズと漁場コモンズにおけるローテーションや細分化といった様々な共同体的アレンジメントを包括し比較分析することのできる理論フレームを構築した。 第二に,上の理論フレームを共同体的土地制度の事例研究に応用した。具体的には,鹿児島県下甑村において極めて人口圧力が高かった昭和20年代の共有田制度を取り上げた。その結果,共有田利用権の配分のさいに細分化とローテーションの組み合わせ方が決定される集合的選択のメカニズムを解明することができた。 第三に,以上の知見を東西の土地制度史と照らし合わせ,共同体的土地保有の理論モデルを構築した。具体的には,土地の配分・利用における共同体の規制と各メンバーの個人性の対立関係を描いた。 土地資源の利用をめぐる共同体的なメカニズムについては従来の経済学は正面から分析して来なかった。むしろ共同体の影響が除去され土地が私有化されたあかつきの効率性分析に主眼がおかれて来た。本研究の意義は,共同体メンバーの集合的選択によって,個々人への土地配分と各々の土地利用に対して強力な共同体的規制が課される仕組みを,理論的かつ実証的に明らかにした点にある。 特に,人口圧力のもとでは,メンバーを養うために規制が強化されることがあるが,従来の理論では説明されなかったこの実態に合理的説明を与えることに成功した。 この成果は,政策への含意として,現在発展途上農村地域において広範に行われている土地私有化改革について,推進派と反対派の対立点をクリアにする意義を持つ。
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