表情認識の個人差・群間差を適切に定量化するため、曖昧な表情画像のコンピュータ合成技術(モーフィング)および項目反応理論を応用した新しい検査法を考案・標準化した。この検査法は、天井効果および情動ごとに異なる困難度など従来の検査法に指摘されてきた問題を効果的に解決するはじめての方法であり、すでに誌上公表が決まっている(Suzuki et al. in press Cognition)。また、この新しい検査法を神経心理学的研究に応用して、パーキンソン病(PD)に伴う表情認識障害を検討した。先行研究はPDが嫌悪や恐怖の表情認識を特異的に障害すると報告しているが、上述した従来の検査法が抱える問題と研究結果が交絡しているという批判がたえない。そこで研究代表者は新しい検査法にもとづく表情認識の成績をPD患者群と健常者対照群との間で比較をし、PD患者群では嫌悪の表情認識の成績が特異的に低下していることを明らかにした。この研究結果は、脳病変が情動に特異的な表情認識障害を引き起こすことを適切な方法論にもとづいて実証したはじめての研究であり、一部の情動に特異的に関与する脳領域が存在することを提唱する「表情認識のマルチシステム説」に有力な根拠を与えるものである。以上の研究知見は国際的にも高い評価を得て、すでに誌上公表されている(Suzuki et al. 2006 Brain)。また、研究代表者の業績も含め、表情認識の神経機構に関する最新知見の文献レビューを昭和大学医学部河村満教授と共同で行い、その成果を総説として誌上公表した(河村・鈴木 印刷中 神経研究の進歩)。
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