研究概要 |
加齢が表情認識に与える影響を、〔研究A〕典型表情の情動カテゴリー同定課題(Suzuki et al.,2007,Biological Psychology)、および〔研究B〕曖昧表情の情動強度評定課題(Suzuki et al.,in press, In : Psychology of Anger)を用いて多角的に検討した。研究Aでは、高齢者が若齢者と比較して嫌悪表情のカテゴリー同定に優れることを明らかにした。さらなる分析の結果、若齢者は嫌悪表情を怒り表情として誤同定する傾向が高く、そうした「怒りに対する過敏性」が嫌悪表情のカテゴリー同定成績を低めていることも明らかにした。研究Aの結果を補完するように、研究Bでは、高齢者が若齢者と比較して怒り表情に対する感度が低いことを明らかにした。これまでにも加齢に伴う怒りの表情認識の低下は報告されてきたが、単に怒りの表情認識の困難度の高さを反映しているに過ぎないという批判を免れなかった。しかし、研究Bで用いた課題は前年度に公表した新しい検査法(Suzuki et al., 2006,Cognition)であり、表情認識の困難度がすべての情動で等しくなるように統制されているため、そうした批判にはあたらない。一連の研究結果から、加齢の影響はとくに怒り表情の認識において顕著である、より具体的には、加齢に伴い怒りの表情に対する感度が特異的に低下するという仮説を提唱した。 本年度の後半からはイリノイ大学アーバナ-シャンペーン校ベックマン研究所へ海外渡航し、加齢の認知神経科学の第一人者であるデニス・C・パーク教授の下で機能的磁気共鳴画像法(fMRI)について学び始めた。海外渡航の目的は、怒りの表情認識の加齢差の背景にある神経機序を明らかにすることであり、現在までにスパイラル・イン/アウト法を用いた予備実験などを実施した。
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