研究概要 |
交付申請書の「本年度の研究実施計画」にしたがって,おもに次の3つの研究を進めた. 1.おもに大正年間に発行された市町村誌に書かれた寺院の被害記録に着目して,安政東海地震(1854)の静岡県内の震度分布を得た.この寺院の記録は,当時の小学校の校長たちによって組織的に調査されたものであり,当時の住職たちの直接証言などを集めたものが多い.この証言とは当時生存した住職たちにとって約60年前に起きた安政東海地震の各自分の寺建物の被害状況であって、その信憑性はきわめて高い.さらにこのデータは静岡県全体にわたって普遍的に分布している.これが,残存に地域的な偏りが生じがちな古文書を震度判定に用いるより,寺院記録を用いた理由である.この結果,静岡県狩野川下流部・富士川下流部・静岡市清水区周辺部・焼津市周辺部・尾綿祖周辺部・および天竜川東岸下流部で震度6以上の揺れであったことがわかった.いっぽう,沼津市原・庵原郡由比町・静岡県駿河区用宗地区では震度5以下程度の揺れであったことがわかった. 2.2005年8月16日宮城県沖に起きた地震(M7.2)によって生じた小津波が,三陸海岸をなどで観測された.また,検潮記録を見ると,たとえば陸前高田市広田湾では40分程度の周期を持った後続波が12時間続き、湾内の固有振動が誘発されたことがわかる.今後,計算により求められる固有振動モードと実際に観測される固有振動モードを比較し,欠落モードなどが存在しないか検討しその理由を探りたいと考えている. 3.地球磁場中を津波が通過することで誘導電位が発生することを検知する研究の手始めとして,浜名湖湖口において天文潮汐流による電位変化を観測した.この結果,天文潮位の周期,とくに12時間を周期とする電位変化を観測することができた.さらにこの絶対値は電磁誘導の法則から期待される値のオーダー(数mV程度)であった.今後は天文潮汐よりも短い,数分から数十分といった津波の周期の流れでも検知が可能かを研究していきたいと考えている.
|