研究概要 |
都市において,腸管系ウイルスは,ヒトの糞便中に排出された後,下水処理場を経由して河川や海などの水環境中に移送して行き,様々な経路を辿ることで再びヒトに感染していると考えられる。この腸管系ウイルスの循環サイクルを踏まえると,下水処理場で腸管系ウイルスを適切に不活化および除去することが重要である。 本年度は,腸管系ウイルスを含めた複数の微生物を対象とし,現行の代表的な処理手法による除去・不活化効果を測定した。先行研究では,対象微生物を試料に高濃度に添加した系で評価を行っていたが,本研究では,実際の試料中に元から低濃度で含まれる微生物を対象として実験を行った。検討した処理方法は,塩素消毒処理,紫外線照射処理,膜ろ過処理の3種類とした。 全体的な傾向として,大腸菌や大腸菌群などの細菌の場合,塩素および紫外線によって容易に不活化され,また,膜ろ過によって十分に除去することができた。一方,腸管系ウイルスおよび大腸菌ファージの場合,細菌に比べて有意に高い消毒耐性を有しており,また,膜ろ過による除去率も低かった。この結果は,現行の処理手法が腸管系ウイルスに対して効果的ではないことを示したものと言える。 また,微生物を試料に添加した系と試料に元から存在する微生物を対象にした系を比較した場合,両方の系における微生物の消毒耐性には明確な差は見られなかった。このことより,微生物を添加することで得られてきた消毒耐性に関する知見が,実際の系での微生物の耐性を的確に表していると判断することができた。
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