本年度は、1.ヒューム宗教論の研究を中心に行いつつも、2.ヒューム宗教論あるいは宗教哲学一般に関連する現代的な問題についての研究も行った。それらの詳細は以下のとおりである。 1.昨年度の研究で、私はヒューム宗教論の全体像を明らかにした。その成果に基づいて、今年度は宗教論の各論について詳細な検討(1)(2)を行った。 (1)ヒューム宗教論の主著『自然宗教に関する対話』では神の存在証明のひとつであるデザイン論証批判が展開されており、この議論は現代においてもデザイン論への最も有力な批判として知られている。しかし、ヒュームが批判の対象としたデザイン論がどのようなものであったのかについては、これまで十分な研究がなされてこなかった。デザイン論は古代にその発想の原点が見られ、現代のインテリジェント・デザイン理論に至るまで、実に多くのバリエーションをもつ。私はヒュームがデザイン論をどのように分析したのか、ということを明らかにし、その成果を論文にして発表した(『論集』第25号に所収)。 (2)ヒュームの懐疑主義は他説に対する寛容な態度を推奨しているということに着目し、ヒューム宗教論における懐疑主義と宗教的寛容の関連について、ヒュームの道徳論や情念論の検討も行いながら研究を進めている。 2. (1)現代アメリカの教育問題等で大きな論争を引き起こしているインテリジェント・デザイン理論について、ヒュームのデザイン論分析と批判を手がかりに考察を行い、その成果を国際高等研究所主催の学際的なワークショップで発表した。 (2)人工妊娠中絶の倫理的な是非については、キリスト教との関連で論じられることが多い。私は日本において中絶を論じるうえでは、水子など日本特有の宗教的背景に留意することが不可欠であるとの認識に基づき、中絶に関する倫理的問題についての研究をすすめ、応用倫理勉強会にて口頭発表を行った。
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