本年度は1年目に当たる。一揆契状の古文書学的検討という視点から一揆契状の悉皆的分析を試みた。現在刊本で紹介されている(活字化されている)一揆契状はほぼ把握し、記載内容を確認できた。分析はまだ途中であるが、本年度に得られた成果は以下の通りである。 一揆契状といえば、松浦地方の一揆契状のような、充所が無く、複数の一揆構成員が連署する形式の文書を想定するのが普通である。だが一方で、差出者の甲から受取者の乙へ宛てて「一味同心」を誓う形式の一揆契状も存在する。この種の一揆契状の書式・文言を分析するに、乙から甲に宛てた一揆契状も(現存しないものの)作成されたであろうことが想定される。すなわち当事者甲・乙間で同時・同内容の一揆契状二通が相互に交換されたのである。契約状の本来の形態に近い、このような一揆契状を「交換型一揆契状」と呼び、従来から知られる一般的な一揆契状と明確に区別した。 さて両者の関係はどのようなものだろうか。検討の結果、全般的に言って、「交換型一揆契状」は外部の人間に見せることを想定していない<内向き>の文書であり、一般的な一揆契状は一揆の結成を外部に表明し一揆の力を誇示する<外向き>の文書、すなわち「提出型一揆契状」であることが判明した。 この発見については2005年10月に開催された第38回日本古文書学会大会において「交換型一揆契状と提出型一揆契状」という題目で研究報告し、現在、学会誌に投稿中である。 原本調査については、山口県文書館などを訪問し、文書撮影などを行ったが、まだ調査に赴けていない所蔵機関が多いため、具体的な成果を出すには至っていない。来年度以降の課題となろう。
|