本年度の研究実績は大きく3つに分けられる。 1.対称性の視知覚と視覚的注意の関係について。先行研究から、対称性を知覚するためには対称図形のある位置に対して視覚的注意を向ける必要があることがわかっている。それに加えて、対称軸の向きに対する注意も重要であることを、無意味輪郭図形による視覚探索課題を用いた実験により明らかにした。この結果については論文として心理学専門雑誌Perception & Psychophysicsに投稿し、掲載が決定している。 2.生物や道具など、身の回りの多くの物体は左右対称な形状をしている。にもかかわらず、対称性が物体の視覚的認知にどのように利用されているかは知られていない。本研究では、ほとんどの物体は対称軸が物体の前後軸と一致していることから、対称性が物体の向きの認知に利用していると仮説を立て、実験的に明らかにした。この成果は、日本基礎心理学会第24回大会において発表し、優秀発表賞を受賞した。 3.物体の対称性が物体の視覚的認知にどのように利用されているかについて、別の側面からも検討した。物体の同定(その物体が何であるかがわかる)においては、物体の主軸を視覚的に認知することが重要だとされている。この主軸とは物体の長軸もしくは対称軸であるとされてきているが、長軸については検討されているものの、対称軸が本当に主軸として物体の同定に利用されているかは証明されていない。本研究では、物体の対称軸がとらえやすい視点では物体同定が容易になることを示し、実際に対称軸が物体の主軸としての役割を持つことを明らかにした。この成果は日本心理学会第69回大会およびOPAM 13th annual meeting(カナダ・トロント)において発表した。
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