本研究は、今年度、自然化された認識論の一つの有力な立場であるところの、認識論的実在論ないし、知識の自然種論が対象となった。以下の内容は近く論文として発表される予定である。知識を他の経験科学における対象(自然種)として捉えるこの立場の内実をはっきりさせるとともに、こうした見解と対立する立場がいかなる論拠に基づくのかを明らかにすることができた。より正確に言えば、対立する見解を収容する形で、認識論的実在論を擁護する道筋を示したのである。これは、具体的には、知識を生物学的世界の内部で生物学的カテゴリーとして成立する対象であると論じたうえで、知識がもう表面上の多様性や動態性は、そうしたカデコリーに属するゆえの性質であり、むしろ知識の安定性や恒常性を反映するものとしての意義があるということを明らかにした。また、人間がもつ知識において見出されることが多いが、これに関しても、環境の構造化という営為に着目しながら、同様の観点から、実在論の擁護を可能にする議論を展開した。すなわち、信頼性主義にもとづき、環境の構造化によって、信頼性の維持・向上がなされることで成立する知識をうみだすメカニズムを解明するとともに、そうしたメカニズムが有する安定化の作用と、人間の知識形成プロセスの多様性および局所性が、後者が前者を支えるという形で結びついているということを論証したのである。以上が概要である。
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