研究概要 |
本研究は、時間反転対称性と空間反転対称性を同時に破る物質において発現する「磁気カイラル効果(光学的電気磁気効果)」の微視的メカニズムを明らかにし、機能効率向上やデバイス応用に向けた新たな物質設計の基本的指針を提示することを目的とする。 時間・空間反転対称性が同時に破れる系として、磁性を担うEr^<3+>イオンが反転対称性の破れたTiサイトを占有するEr添加強誘電体(Ba,Sr)TiO_3単結晶をフローティングゾーン法によって作製し、Erの発光における光学的電気磁気効果の検証を行った。試料は室温で強誘電性・常磁性を示し、自発分極および発光のkベクトルと垂直となる方向に5Hz・30000eの交流磁場を印加し、磁場の正負における発光強度の差をロックイン検出した。 室温で得られたEr^<3+>の^4I_<13/2>→^4I_<15/2>遷移における発光スペクトルには基底・励起状態の結晶場分裂を反映した多くの構造が見られ、これらに対応した分散型の磁場変調スペクトルを得た。磁場変調スペクトルのピーク強度が磁場に線形に比例し、かつ、自発分極の反転によってスペクトル全体が反転することから、得られた磁場変調スペクトルがFaraday効果によるものではなく光学的電気磁気効果に起因していることを確認した。また、変調磁場の2f成分が1f成分に比べ3桁程度小さいことから、Cotton-Mouton効果からの寄与はないと言える。得られた非相反性は室温・30000e磁場下でおよそ0.5%であった。磁場変調スペクトルのピーク強度の温度依存性を測定し、常磁性的な1/7の依存性を持たないことが分かった。
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