本研究課題では、多様な大気を持つ地球型惑星の表層環境の安定性と、それらの惑星上で発生した生態系の安定性を議論する。研究計画においては、厚い大気による自転軸変動の抑制を主眼としていたが、昨年度は厚い大気の形成過程とその大気下での表層環境状態を研究することを優先させた。そこで本年度は、そうした大気が大規模に散逸して表層環境状態を大きく変化させる可能性を調べるため、惑星大気のハイドロダイナミックエスケープに着目して研究を行った。 ハイドロダイナミックエスケープの理論解を求めることは容易ではなく、古くは80年代から解析的な手法により計算がなされてきたが、音速を超える速度の解を正確に求めることができないため現実的な適用は難しい状況である。一方、Tian et al.(2005)などによって大気成分が1成分の場合の数値計算は行われてきたが、大気成分が複数種の場合、あるいは吸収・放射を考慮した場合の数値計算はいまだ実現されていない。そこでまずはハイドロダイナミックエスケープの数値解を安定に計算するためのコード作成を行った。このコードを用いて計算した結果、過去に計算された解析解を再現できることが確認された。次に大気成分が2成分の場合へと計算コードを拡張し、こちらも解析解を再現できることを確認した。以上により、一般的な惑星大気の散逸を計算するための基本コードが完成した。過去の解析解はある特殊な場合においてのみ得られる解であったため、今回あらゆる場合において計算可能な数値計算コードを作成できたことの意義は大きい。現在この計算コードをさらに改良し、様々な大気散逸問題に適用するための、多成分で吸収・放射入りの計算コードを完成させるべく研究を進めているところである。
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