3年計画の1年目である平成17年度は、昨年度までに開発が終了していた345GHz帯超伝導ヘテロダイン受信機を超高精度サブミリ波望遠鏡ASTEに搭載し、それを用いた観測が進められた。特に代表的な棒渦巻銀河であるM83に対してCO(3-2)輝線の広域観測を行い、星形成活動と直結した高温高密度の分子ガスの分布の様子を明確に描き出すことに成功した。更に、既に野辺山45m鏡で得られていたCO(1-0)輝線のデータと合わせて、M83の各場所(中心、棒状構造、円盤領域など)におけるCO(3-2)/(1-0)輝線強度比を計算し、分子ガスの物理状態の診断を行った。その結果、M83中心の爆発的星形成(=スターバースト)領域では円盤領域に比べて輝線強度比が高く、ガスが高温かつ高密度の状態にあることが明らかになった。 本研究で得られたM83のCO(3-2)輝線の広域マップは、観測領域の広さ・感度の高さ共に過去に例がなく、星形成活動の強さと分子ガスの物理状態(温度・密度)の関係を解明していく上で欠かせないデータとなるであろう。本研究結果は、日本天文学会や国際研究会などで発表を行っており、現在論文を執筆している段階である。 上記のような観測的研究と並行して、345GHz帯受信機に側波帯分離機能を追加する開発研究も進めてきた。まず野辺山ミリ波干渉計実験用デュワーでの性能評価試験を進め、雑音温度を付加することなく上側波帯、下側波帯の信号を独立して取り出すことに成功した。実験室段階で90%以上の側波帯除去比を達成しており、345GHz帯の側波帯分離型受信機をASTE望遠鏡に搭載して観測的研究を行う見通しを得た。 なお、本年度は野辺山45m鏡や野辺山ミリ波干渉計に提出したプロポーザルが採択され、現在、観測データの取得と解析を進めている段階である。M83に対する更に詳細な分子ガス観測、および星形成活動との関係の解明に向けて新たな足がかりを得た、ということも付け加えておく。
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