研究概要 |
3年計画の2年目である平成18年度は、1年目にASTE望遠鏡を用いて得られた棒渦巻銀河M83のCO(3-2)輝線広域観測のデータに更に詳細な解析と議論を加え、M83における分子ガスの物理状態(ガスの温度・密度)と星形成効率の相関について新たな知見が得られたので、論文執筆を進めた。 1年目の時点で、CO(3-2)/CO(1-0)輝線強度比が円盤領域(〜0.6)から中心部(〜1.0)に向かって上昇していることを既に明らかにした。これは、星形成活動に直結した高密度分子ガスの存在割合がM83中心部において上昇していることを意味し、それに伴って星形成活動が活発になっていることを示唆する。実際、M83の中心部ではスターバーストと呼ばれる爆発的な星形成活動が起きていることが既に知られており、本研究のCO観測結果と合っている。 私は、CO(3-2)/CO(1-0)比と星形成活動の関係を定量的に評価するため、M83の他波長のアーカイブデータを用いて星形成率の定量化を行った。更に分子ガス質量や星形成効率(単位ガス質量あたりの星形成率)も算出し、それぞれの空間変化(M83中心から半径方向の変化)を比較した。 まず、分子ガス質量と星形成率はM83の中心部のスターバースト領域で卓越しており、円盤領域でもバーエンド(棒状構造と渦巻腕の接続点、中心から2.4kpc)で第二のピークを持つことが明らかになった。一方、CO(3-2)/CO(1-0)比と星形成効率は、中心部で卓越している点は前者二つと同じだが、バーエンドにおける第二のピークは存在せず、円盤領域でほぼ一定の値を保っていた。 この結果は、スターバーストのような大規模な星形成活動は、星形成効率が高い(ガス質量が同じでも星が生まれやすい)ことで特徴付けられ、分子ガスが高温高密度の状態にある(運動温度60K以上、分子ガス密度10000個/cc以上)ことが星形成効率を高める(=スターバーストを引き起こす)ための条件になっていることを示唆する。 本研究成果は、日本天文学会欧文研究報告に掲載された。 (Muraoka et al. (2007), Publ. Astron. Soc. Japan 59, 43-54)
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