研究者は現在、不斉な炭素骨格を有するキラルフラーレンの不斉認識を課題として研究を行っている。三次元的な球状・楕円状構造に由来するキラリティをセンシングするために、相互作用部位として、不斉に歪んだπ共役面を有するキラルな新規ポルフィリン環状ホストをすでに設計、合成し、C_<76>のキラリティを^1H NMR上でセンシングすることに成功している。このことを利用し、既存の報告よりも正確なC_<76>のΔεの算出に成功した(JACS.2006.10690-10691.)。また、キラルホストの分子デザインを再検討し、ポルフィリンβ位にアルキル基を導入した置換タイプのポルフィリンを基本骨格とした新規キラルを設計、合成したところ、このホストが1.0:1.2程度の選択性でC_<76>の一方のエナンチオマーを選択的に取り込むことを^1H NMR上で確認した。このホストは、キラルフラーレンに対してエナンチオ選択性を有する初めてのホスト分子である。また本キラルホストのエナンチオマーを用いて、過剰量のラセミ体C_<76>から、わずかであるが一方のエナンチオマーを選択的に抽出できることも見出している。この時、エンリッチされるC_<76>のエナチオマーは^1H NMRで確認されたホストのエナンチオ選択性と一致することも確認した。このような選択性は、ポルフィリンβ位が無置換のタイプのキラルホストでは全く見られない。β位へのアルキル基の置換によるポルフィリン環の歪みの増大や、電子ドナー性の増大によって、C_<76>と不斉ポルフィリンがより強く相互作用することが、ホストのエナンチオ選択性の要因だと考えられる。
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