生物が生体の内外に鉱物を主成分とする硬組織を形成する現象(バイオミネラリゼーション)は甲殻類の外骨格、軟体動物の貝殻、人の歯・骨など幅広い生物に見られる普遍現象である。バイオミネラリゼーションは単なる無機化学反応ではなく、そこに含まれる少量の有機基質が鉱物結晶の形成、成長、多形、形態等の制御に関わっていると考えられている。本研究の材料であるアコヤ貝貝殻は内側に炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶から成る真珠層、外側に炭酸カルシウムのカルサイト結晶から成る稜柱層と、異なる2つの結晶多形から構成されているのが特徴である。このように同一の場に最安定であるカルサイト結晶と準安定であるアラゴナイト結晶を作り出す機構に、有機基質が関与していると考えられるが、未だそのメカニズムは不明である。そこで貝殻から有機基質を単離・精製し、構造機能解析を行うことで貝殻形成のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 アコヤガイ貝殻稜柱層に特異的タンパク質であるPrismalin-14の機能解析を行った。全長、N末端欠如、N末端・C末端欠如等の組み換え体Prismalin-14を作製し、それぞれの断片について炭酸カルシウム結晶形成阻害活性、キチン結合活性を行った。その結果、N末端およびC末端のアスパラギン酸に富む酸性領域が炭酸カルシウム結晶形成阻害活性に重要であり、この部分が炭酸カルシウム結晶と相互作用するということが判明した。またグリシンとチロシンに富む領域はキチンと非常に強い親和性を持ち、稜柱層内でキチンと結合する役割を持つことが示唆された。このようにPrimslain-14は稜柱層内でキチンと炭酸カルシウム結晶との仲介をする役割とすると考えられた。 真珠層におけるアラゴナイト結晶誘導有機基質の探索は現在行っているところである。
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