発達期において神経細胞は一旦多くの標的細胞に投射した後、決まった様式で細胞移動や軸索除去・再配置を起こし、最終的に成熟脳に見られる神経回路を形成させるといったダイナミックな現象を示す。神経回路が形成される発達期の神経線維に関する研究は、多くが形態学的・分子生物学的観点から進められており、その機能については未だ不明な点が多い。近年、マウス海馬においても神経投射の再配置が起き、生後30日までに成熟脳に近い神経回路が形成されることが、形態学的な研究により明らかにされた。そこで、このダイナミックな現象が観察される幼若期の海馬苔状線維のシナプス伝達を、電気生理学的・光学的手法を用いて成熟期のシナプス伝達と比較検討した。その結果、幼若期には、活動依存的なシナプス伝達増強に、シナプス前性GABA_A受容体が寄与していることが明らかになった。シナプス前性GABA_A受容体は、周囲の介在神経細胞から遊離されたGABAによって活性化され、苔状線維の興奮性を増大させた。また、このGABA_A受容体によってシナプス伝達増強が修飾される現象は、発達とともに徐々に減少し生後30日までに消失した。海馬苔状線維上のGABA_A受容体は、その活性化により苔状線維の興奮性を調節し、自発的なシナプス伝達を調節することが報告されていたが、当研究により、幼若期においてのみ活動依存的に苔状線維の興奮性を増大させるよう調節していることが明らかになった。この現象は、苔状線維-CA3神経回路形成に役割を果たしているかもしれない。
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